Monday, February 1, 2010

小説 五十六歳の青春 第三回

 由香里は長年初体験の相手に再会したいと思っていた。初体験の相手がいつも心の中に宿っていたのである。
「あの人だけは私の気持ちを分かってくれるはず」
 こう思っていた。
だが連絡を取ってみると、
「何で連絡して来るんだ。おれの生活をぶち壊す気か」
 と烈火のごとく怒るのだった。
「ああ、思い出は思い出として残しておこう。過去を振り返ってはだめだ。厳しい現実を見つめて生きないと」
 由香里は頭ではこう自分自身を納得させても、
「素晴らしい恋をしたい」
 この思いが失せる事はなかった。
だが、
「この人はすばらしい」
 と思う人は必ず奥さんや恋人がいるという、厳しい現実が由香里を苦しめるのである。 

No comments:

Post a Comment