「セカンドはホースアウト」
テレビの野球中継でアナウンサーが叫んでいた。
「日本語として聞いておこう」
久雄は自分にこう必死で言い聞かせた。
「しようがない日本では英語教師でさえ、horseとforceの発音の区別が出来ない者がいる。テレビのアナウンサーに正確な発音を期待する事が無理なのだ」
久雄は自虐の笑いを浮かべるのだった。アメリカに留学していた時、
「日本じゃあ、force outをhorse outと言うんだぜ」
と友人から、からかわれた事があるからである。久雄は反論する事ができなかった。
「実際にforce outをhorse outと言っているからである」
アメリカ人の友人は、
「恐らく日本では、セカンドベースに一生懸命馬のように走るからhorse outと言うんだろう」
と言うのである。
このアメリカ人は日本の中学高校を出ていて日本の事情を知っていて、こう言っているのである。彼は日本のパズルのような日本の受験英語にノイローゼになるほど悩まされたからである。
「発音が全くでたらめな英語教師が、難解な英語のテキストで講義をするのである」
理解しろと言うほうが無理であった。
このアメリカ人、ある時日本人の英語教師にこう言われたそうである。
「アメリカ人は出来が悪い。ちょっと高度な文法になると理解が出来ない」
こんな風に。
この時以来、このアメリカ人は日本人を嫌いになり距離を置くようになっていた。アメリカに帰り日本人を見つけると、辛く当たるのだった。
久雄は辛く当たられても返す言葉がなかった。
「日本の英語教育の現状はこのアメリカ人の言うとおりだったからである」
久雄はそれでも自分の思いを捨てなかった。
「いつかおれが日本の英語教育を立て直す」
この強い思いがあったのである。
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