「田中先生(久雄)コーヒーでも飲もうよ」
久雄の先輩の英語教師、岡本が久雄にこう言葉をかけた。
「分かりました」
久雄は岡本に言葉を返したが、心の中で岡本にこう叫んでいた。
「英語教師がなんて発音をするんだ。コーヒーと言ったら、cohheeだろうが。coffeeはcoffeeでせめてコーフィーと発音して欲しい」
日本人の多くはcoffeeをコーヒーと言う。だが、実際ネイティブ・スピーカーズの発音を聞いていると、確実に、
「コーフィー」
と発音している。
「せめてcoffeeくらい・・・・・・・・」
心の底で久雄は激しくこう思ったが、先輩の英語教師にそれを口に出して言う事は出来なかった。
「波風を立てて、嫌われたくなかった」
この思いが強かったのである。
「こんな発音でアメリカやイギリスで暮らして行けると思ったら大間違いだ」
久雄は遠くを見つめ、
「何でおれは英語教師になったんだろう」
またこう自問自答するのだった。
「英語が好きなんだろう、こんな苦労がある事を承知で英語教師になったんだろう」
自分にこう言い聞かす以外に、久雄に出来る事はなかったのである。
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