Sunday, January 30, 2011

問題小説 恵子の最終楽章 第9回

「老人会に参加してください」
 町の世話役が恵子の元を訪ねてきた。
「私は老人なのか」
 こう思うと恵子は溜息が出た。そしてこの老人会にいやいやながら参加して老人の顔を見るたびに体調を崩すのだ。
「これが人生の最終楽章なのか。人生の最終楽章はこれほどまでに寂しいものなのだろうか」
 自問自答しても答えは出ない。
恵子の生きがいは街の音楽家モンティーミヨシが週一恵子が住んでいる町の駅で開くコンサートを聞きに行く事だった。
「1950年代、60年代の音楽を聞かせてくれる」
 恵子は十代の女の子に混じってモンティーミヨシの音楽を聴いた。何の違和感もない。当たり前の話である。
「恵子が十代、二十代の頃の音楽なのだから」
 だが、十代の女の子の一言が恵子の胸を突き刺した。
「おばあちゃんも音楽が好きねえ、分かるこの音楽」
 この言葉を聞いて恵子は生きた心地がしなかった。 

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