Monday, January 31, 2011

問題小説 恵子の最終楽章 第10回

「おばあちゃん」
 という言葉は恵子の胸をえぐった。
自分の孫に言われる時は、どうということはない。だが、
「他人にしかも十代の女の子に言われると、胸をえぐられる」
 家で鏡を見て自問自答した。
「あなたはまだ若い」
 気分のよい時はこう思って楽観できた。だが、落ち込んでいる時は、
「あなたはやっぱりおばあちゃん」
 ともう一人の自分が言うのだった。
「誰もが通る道とは言え、人生の最終楽章は辛い。素晴らしい最終楽章にしたい」
 恵子はあせりを覚えていた。
「人生に対してもだが、恋の炎を消せない自分に対しての慟哭に対して」
 鏡を見て自分を落ち着かせるように呟いた。
「人生なるようにしかならない」
 恵子は寂しく笑うのだった。

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