Saturday, January 22, 2011

二宮正治の問題小説 恵子の最終楽章 第1回

 恵子は七十歳になる。
「私の人生も最終楽章だ。最後はきれいに飾りたい」
 常日頃こう思っていた。
がしかし、三年前に夫に死別してあまりの寂しさにもんもんとした日々を送っていたのだ。
「自分の理性をあざ笑うかのように、自分の体の底から湧き上がってくる欲望を抑えきれずどうしようもなくなっていたのである」
 恵子は人知れず悩んだ。
「どうしよう欲望のコントロールが効かない、自制ができない。女の人生の最後はこんなものなんだろうか。こんな事を仲の良い友達にも絶対に聞けない」
 恵子は抑えきれない欲望を自慰で紛らわす日々を送っていたが、ある日事の成り行きから若い男性と関係を結んでしまった。
「娘の初体験の相手と」
 今、恵子の最終楽章のタクトは振り下ろされたのだ。誰も分からない楽章が。

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