Sunday, November 21, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第13回

 2010年11月広島市安芸区矢野において、歴史的和解が成立したのだった。
「旧安芸郡矢野村の田中家と旧安芸郡大井村の森田家が正式に和解したのである」
 矢野の主だった人を集めて宴会が開かれた。
「その中には当然、メイジとマリも列席していた」
 田中家と森田家の人々が交互に座り杯を酌み交わしたのだった。
「四百年のイザコザが解消しようとしているのだった」
 矢野の人々も大喜びである。
「四百年もの間、あっちを立てればこっちが立たず」
 の生活をしていたのだから。
「今からはそれが無いのである」
 喜ばずにはおれなかった。
田中家と森田家はお互いの当主が、
「今からは親類としての関係を保って行こう」
 こう誓い合うのだった。
                                  この物語は今回で終了しました。

(この物語はフィクションです)

Saturday, November 20, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第12回

 ある週末に地元の大学の歴史の先生が広島市安芸区矢野の公民館に来て話をした。
「その場所には、旧矢野村の田中家の人達と旧大井村の森田家の人達もいた」
 古田教授は話を始めた。
「私の研究によりますと、田中家と森田家は五百年前に同じ先祖につながって行きます」
 この言葉に、会場からどよめきがあがった。
「本当ですか・・・・」
 口々にこの言葉が発せられた。
「本当も嘘も無い、これを見れば分かる」
 と教授は古文書を見せたのだった。
「確かに田中家と森田家がつながっている」
 そして江戸時代の初期に、
「水の権利をめぐって兄弟で喧嘩になり、弟が大井村で森田家を起したのだった」
 人々のどよめきは納まらなかった。
教授は話が終わると何事も無かったように澄まし込んだ顔をして帰って行った。
 人々のどよめきはまだ納まらない。
              (この物語はフィクションです)

Thursday, November 18, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第11回

 江戸時代、安芸郡の矢野村の庄屋は田中家で、大井村の庄屋は森田家だった。
「この両家、戦国時代に毛利元就に矢野が滅ぼされた後、お互いの弱腰をなじって争うようになったのである」
 だからもう四百年以上になる。
「田中家のメイジと森田家のマリが恋に落ちたからといって、四百年以上いがみ合ってきた両家が和解して仲良くなるはずも無かった」
 それどころか、
「亀裂は益々広がったのである」
 矢野の人々は、
「この両家が仲良くしてくれる事を願っていたが、何しろ力のある両家である」
 表立ってどうこう言うわけには行かなかった。
「沈黙は金なり」
 ひたすらこれを守っていたのである。
メイジとまりは顔を見合わせてため息をつくのだった。
(この物語はフィクションです)      

Wednesday, November 17, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第10回

 メイジの父親とマリの父親は、あのメイジとマリが密会している矢野の墓地で、元焼き場で激しく言い争っていた。二人の争いは終わらない。
「うちの息子をたらしこむな」
 ものすごい剣幕でメイジの父親がマリの父親に怒鳴った。
「たらしこんだのはどっちだい」
 マリの父親も負けてはいない。
「うちの息子に会ってくれるな」
「ちょっかいを出しているのは、お前の息子のほうだろう」
 会話は平行線に次ぐ平行線である。
無理も無い。
「江戸時代から平行線に次ぐ、平行線だったのだから」
 いやそんな簡単なものではない。
「ちょっとした戦の様相を呈していたのだ」
 この両家の争いは続く。
メイジとマリは、生きた心地がしなかった。 

Tuesday, November 16, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第9回

 矢野駅(広島市安芸区矢野JR呉線矢野駅)の前の道でメイジの父親とマリの父親が大喧嘩となった。
 回りの人々が仲裁に入ったが、納まらない。それどころかつかみ合いになり警察が出動する騒ぎとなってしまった。
 おまわりさんが必死で、
「お互い大人なんだから」
 と両者をなだめている。
昔からの人が、
「また、矢野名物が始まった」
 とため息をついた。
「ほんとだ、まるでロミオとジュリエットの一場面を見ているようだ」
 と違う人が言った。
「江戸時代からこの両家はこうやって派手にけんかをしてきたのであった」
 矢野の一つの名物となっていた。

Monday, November 15, 2010

小説あなたと私の合言葉 第8回

 メイジは生まれて初めて父親に逆らった。
「マリちゃんとの交際を許してくれないのなら家を出る」
 大声でこう言った。
「マリってあの大井の森田の娘か」
 父親はびっくりしたようにこう言った。
「そうだよ、それがどうした」
 メイジも凄い剣幕である。
「この罰当たりが・・・・・・」
 父親はこう言うなり黙ってしまった。
「交際を許してくれる」
 このメイジの言葉に父親は、
「絶対に許さん」
 こう言うのだった。
「僕には僕の人生がある」
「だめだ」
 二人の言葉は平行線をたどった。

Sunday, November 14, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第7回

「最近やけに大井で見かけると知り合いの人が言うが、メイジ何をしに大井に行くんだ」
 メイジの父親がメイジに強い口調でこう聞いた。
「高校の友達に会いに行っている」
 このメイジの言葉に、
「間違っても、森田の家には行くなよ」
 父親は激しい口調でこう言った。
「なぜ・・・・・・・」
 メイジも強い口調で言い返すと、
「あほう、矢野村の田中の家の息子が、大井村の森田の家の者にへらへらしたとなると矢野中で物笑いとなる」
 父親の言葉に、
「何が矢野村だ、何が大井村だ。何が笑いものだ」
 メイジは生まれて初めて父親に逆らった。
父親はこのメイジの言葉に、
「この野郎」
 と言うなり、鉄建制裁を加えたのだった。 

syousetu

あなたと私の合言葉! 第6回

 メイジとマリは広島市安芸区矢野にある、姫宮という神社にいた。
「二人がどうか末永く一緒におれますように」
 という願をかけに通っているのである。
「姫宮様なら分かってくれるはず」
 マリが姫宮様に呟いた。
「そうです、姫宮様は天照大神のお姉さまにあたる速秋津日女(はやあきつひめ)におわしますので。私達の願いを叶えてくださる筈」
 メイジもうやうやしく言うのだった。
「二人は必死なのである」
 江戸時代から仲の悪い家の子供として生まれ、恋愛関係に陥った二人の当然と言えば当然の成り行きである。
「姫宮様、毎日通って来ますので」
 二人はこう言って祈願するのだった。

Friday, November 12, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第5回

「あなた無しでの生活なんて考えられない」
 マリはあえぐようにこう言った。
「親に交際の許しを得よう」
 メイジはマリにこう言った。
「駄目よ反対するに決まっている」
 こうマリに言われると、メイジも返す言葉が無かった。
「うーん・・・・・・・」
 こう言うとメイジは黙ってしまった。
「まず、二人の愛を確かな物にしましょう」
 マリのこの言葉に、
「そうだなあ」
 メイジは苦悶の表情を浮かべ言葉を返すのだった。
「お互いの家が仲が良ければ、こんなに夜中に元焼き場で現在は墓地になっているような場所で密会しなくても済む事なのである」
 メイジは、
「こん畜生」
 はき捨てるように言葉を吐いた。
「そんな事言わないで」
 マリは必死でメイジをなだめるのだった。

Thursday, November 11, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第4回

「メイジ君、私を抱いて」
 マりはいつもの逢瀬の場所、矢野の昔の焼き場跡、墓地でこうメイジに迫った。
「焦るなよ」
 メイジはマリの心を落ち着けようとしたが、そうしようとすればするほどマリは興奮してメイジに迫ってくるのだった。
「大好き、メイジ君。ああ、メイジ君・・・・」
 マリはこう言ってメイジにむしゃぶりついた。
「ふー・・・・・」
 メイジが大きく息を吸った。
「キスして・・・・・・・・」
 マリの情熱は爆発している。
メイジはマリの髪を撫で首筋に唇を当てた。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」
 マリは激しく喘ぐのだった。

Wednesday, November 10, 2010

小説 あなたと私の合言葉 第3回

「おれ達の愛は許されない愛だろうか」
 メイジは広島市安芸区矢野の山の上にある墓地でマリと逢っていた。
「許すも許さないも、あなたと私の問題でしょう。何の問題があるの」
 マリはメイジにこう言い返した。
「しかし、おれ達の家は江戸時代から仲が悪いからなあ」
 メイジは苦汁の表情を浮かべ、自分に言いきかせるようにこう言うのだった。
「関係ない」
 マリは強い口調でこう言った。
「マリはどんな事があってもおれについてくるか」
 このメイジの言葉に、マリは、
「ええ」
 ときっぱりと言った。
「大学生になったら、広島市か呉市に住もうか」
 メイジの言葉に、
「ええそうしましょう。ここにはおれないかも」
 マリは本音をメイジに返すのだった。 

小説 あなたと私の合言葉! 第2回

「ああ、メイジ君好きよ」
 マリは激しくメイジに言い寄った。
場所は、広島市安芸区矢野の山のふもとにある、墓地である。
「昔、焼き場のあった場所」
 なのだ。
しかし、燃え上がっている彼等にはそんな事は眼中になかった。
「誰にも邪魔をされない愛の巣」
 になっていたのである。
マリは激しく燃え上がっていた。メイジの口を激しく吸って、舌を絡ませるのだった。
 メイジはマリの愛の攻撃にたじたじになりながらも、
「ああ、マリ」
 と言葉を返すと、マリは一層興奮して、
「うれしい・・・・・」
 こう絶叫してメイジにむしゃぶりつくのだった。
  

Tuesday, November 9, 2010

小説 あなたと私の合言葉! 第一回

 田中明治と森田真理は広島市安芸区矢野に住んでいた。矢野といっても明治は江戸時代の安芸郡矢野村、真理は安芸郡大井村である。
「二人は小学校の頃から大の仲良しであったが、この田中家と森田家は江戸時代から仲の悪い家同士だった」
 人々は顔をあわすとこう言っていた。
「ロミオとジュリエットのようにならなければいいが」
 二人はまるでシィクスピアの四代悲劇、
「ロミオとジュリエットのような毎日を送っていたのだ」
 高校二年生の二人は、
「あるときは呉市の戦艦大和を作ったドッグが見渡せる休山、そしてまたある時は広島の比治山」
 逢瀬を重ねた。
ある土曜日、真理が明治に言った。
「こんな生活もういや、あなたとこの矢野で逢いたい」
 この真理の言葉に明治は、
「この矢野では会う場所が無い。すくお互いの両親にばれてしまう」
 顔を曇らせて真理に答えた。
真理は引き下がらない。
「矢野の墓場の中にある、焼き場跡で逢いましょう」
 あえぐようにこう明治に言うと、
「焼き場・・・・・・・・・」
 明治は言葉を濁す。
「私を好きならこの申し出受け入れて」
 真理は食い下がる。
暫く考えた後、明治は、
「分かった」
 と真理に言葉を返した。そして、
「あなたの私の合言葉、矢野の焼き場で逢いましょう」
 と自虐的に笑うのだった。